前回「(1)商談の進め方」では、 海外バイヤーと商談 における具体的な進め方について、お話ししました。
では、商談会 での短い時間で、どこまで話をまとめられるでしょうか。
海外バイヤも「なるべく詳細を詰めたい」と思っているはずです。
「できれば、クロージング(取引締結)まで」、と。
そのためには、やはり万全の準備が欠かせないと思います。
以下、実際の商談会に向けて、準備のご参考になれば、と存じます。
海外バイヤーと商談 での クロージング とは?
厳密に言えば、クロージングとは「契約書の取り交わし」だと思います。
しかし、商談では、そこまでの時間がありません。
少なくことも、対面で到達できる「取引の合意」までを狙いたいところです。
では、具体的に?
たぶん、以下のようなポイントを、できるだけ合意することでしょう。
- 取引価格、数量、貿易条件
- 各種証明書
- 輸出入の段取り (担当する輸出入業者など)
- サンプル出荷の段取り
- 今後詰めていく事項(ペンディング事項)
最後に、両者が立ち上がり、別れの挨拶をしながら、固い握手を交わす。
ここまでできれば、パーフェクト。
あとは、メール・FAX・電話・Skypeで詳細を詰めていけば良いでしょう。
商談会 第一の課題は「取引価格」
クロージングの条件の第一は、「取引価格」です。
そして、これは、海外バイヤが、商談相手である私たちの「覚悟の程度」を把握する、いわばリトマス試験紙のようなものです。
なんて素晴らしい商品だ!、と商談が盛り上がりに盛り上がったとしましょう。
「ところで、価格表(Price list)はありますか?」と尋ねられます。
「わかりました。すぐにご用意してお送りしましょう!」と応えたとします。
ここで、海外バイヤは、外見の笑顔と裏腹に、内心では取引意欲が半減。
もちろん、それでも食い下がられて、「では、価格表をお待ちしています」と、仰っていただける海外バイヤもいると思います。
それはそれで、とても有難いことです。
一般的には、その後すぐに価格表を作成し、なんとか2週間で送ったとしても、快い反応は期待できないことが多いです。
海外バイヤが求める「取引価格」とは、以下のいずれかだと思います。
- CIF価格: 輸出者が相手国の港で商品を荷揚げするまでの費用を含む価格
- FOB価格: 輸出者が国内の港で商品を本船に積込むまでの費用を含む価格
国内卸価格に、国内輸送・梱包・通関・海上輸送等の費用と保険料を加えたもの
国内卸価格に、国内輸送・梱包・通関などの費用を加えたもの
まず、CIF価格から。
これは、単なる卸値だけではなくて、輸送や輸出入の段取りが決まり、初めて試算できる価格です。
既に、海外輸出を経験されている方であれば、ぽんと出せるかもしれません。
しかし、初めての海外輸出であれば、一気通貫で段取りを決めるために、まずパートナーとなる商社から探さなければなりません。
でも考えてみてください。
どれだけの量を輸出できるのかわからりません。
少量だからと言っても、それ相応の経費がかかる。
経費を積み上げれば、現地との取引は、御破算になってしまう。
そして、商社の担当者も、人です。
「取引確度が低そうだ」と思えば、リスクを避けるでしょう。
そのようなことを考慮すると、少量から取り扱ってくれる商社は、かなり少ないのでは、と思います。
さて、このCIF価格を求めてくる海外バイヤは、「取引価格が提示されれば、すぐに取引を締結しよう」と思っています。
商談のその場で、取引額と受渡日が決まることもあるでしょう。
一方の、FOB価格は、「取引の最低要件」として尋ねてくるようです。
これも、少なくとも輸出にあたって、各種証明書の費用や輸出通関までの費用がわかっていないと出せない価格です。
パートナーとなる商社が決まっていなくても、こちら側に輸出についての知識があるかどうか、がこれで判明してしまいます。
各種証明書とは、何のこと?
ご存知のように、日本製品を海外へ輸出するためには、現地の輸入規制をクリアする必要があります。
詳細については、JETROホームページをご参照ください。
JETRO 輸出制度・手続きの関連情報
海外バイヤからすれば「規制に沿って輸入できるものか」を判断するために、必要になります。
注意したいのは、日本で取得できる証明書が、必ずしも現地で通用しないものもあることです。
例えば、農産物の残留農薬検査の分析結果証明書は、日本でも取得可能です。
しかし、茶葉などの食品によっては、EU、アメリカ、台湾、香港、シンガポールなどで、各国が信頼する検査機関の証明書が必要、との指摘を受けることがあります。
そうなると、証明書を取り直す必要がでて、費用が嵩んでしまうことも。
一方で、パートナーの国内商社が、手続き関連を代行してくれるところもあります。(有償あるいは取引価格に織り込む形で対応)
つまり、商談までには、相手の国を想定して「規制と必要になる証明書」を調べ上げておくと良いです。
- 輸出する商品のカテゴリを明らかにして、
- 各国の輸入規制を列挙し、
- 実際に輸出するまえに必要な証明書、取得時間、取得費用をまとめておく
さきほどの、FOB価格に含まれる、各種証明書の費用は、このようにして算出しておきます。
輸出入の段取りは、どこまで決めておくべき?
もちろん、段取りが事細かに決められているのがベストです。
しかし、取引確度がわからない段階で、段取りは決められません。
もしかすると、海外バイヤ側で、既に日本の他社と取引があり、懇意にしている輸出・輸入業者がいる場合もあります。
そのような場合は、海外バイヤの指定する業者と、商談後にやり取りすればOKでしょう。
もし、商談前に、パートナーとなる国内商社が見つけていれば、事前に、商談後の段取りについてその商社に依頼しておくことです。
海外バイヤに対しては、「輸出入の段取りは、こちらの指定商社と詰めてください」と伝えるだけで十分です。
「価格表も、指定商社から後日連絡させれば良いじゃないか」と思われる方もいらっしゃると思います。
私のこれまでの経験では、やはり商談の場に価格表を出せず、とうまく行かなかったケースがありました。
サンプル出荷のノウハウとは?
サンプル出荷には、いくつか理由があります。
- 海路を船便輸送した後の、品質確認
- 海外バイヤが、自分の取引先に試用してもらい売り先確保
- 海外バイヤが、自社の商品会議での評価に使用、など
上記のような、サンプル出荷が求められるケースが多いようです。
問題は、この費用をどう考えればよいか、でしょう。
「サンプルだから、無料?それとも、ディスカウント価格?」と疑問に思われるでしょう。
私は「ディスカウント価格でも良いですが、送料など費用を請求してください。」とお願いしています。
「サンプル品だからと言って、軽く扱わないで欲しい」という気持ちの部分と、
「費用請求も商談のうち」という戦術の部分と、
両方の意図があるからです。
「費用請求も商談」というのは、上記のサンプル品送付の費用請求と共に、条件を付けておくことなのです。
例えば、「正式な初回出荷の金額から、サンプル費用を割り引きます」という条件。
皆さんも、国内でのサンプル出荷でよく利用されているかと思います。
これなら、取引成立にプラスになるかもしれません。
仮に取引が成立しなかった場合、損計上しなくてても良い。
このようなうまい条件を考えてつけることで、互いの距離を縮めるようにしてください。
最後に今後詰めていく事項(ペンディング事項)を整理
短時間の商談で詰め切れないところもあるでしょう。
前回にお話しした「取引条件」には、契約書で盛り込む内容を列挙しました。
これらの内容は、パートナーの国内商社と事前に確認しておけば良いです。
しかし、気になる点については、あらかじめ「チェック・リスト」を作っておいて、その場で確認してください。
そして、詰め切れない点について、最後に口頭で良いので、「後日調整」と伝えてください。
一つ、重要なアドバイスがあります。
もしその海外バイヤの熱意が高く、商談会の後で会うことができるのなら、次回アポを取ってください。
なるべくなら翌日にでも。
深くつきあいたいのなら、食事も兼ねて。
対面で商談できる機会は、本当に少ないのですから。
今回を逃がすと、来年にまで持ち越さなければならないこともあります。
言葉の問題は?
ここまで読まれた方は、「ところで、通訳が必要なんじゃないか?」と思われたことでしょう。
もし、ご自身が英語でやり取りできたら、それは素晴らしいことです。
仮に、通訳となる社員あるいは外部の業者にお願いするのなら、以下の点に留意してください。
- 海外居住経験があること
- 笑顔が得意であること
- 商談の経験があること
もし、パートナーの国内商社が決まっていて、同席していただけるのなら、通訳もお願いできるとなお良いです。
たぶん、上記のような経験も豊富でしょう。
何と言っても、海外バイヤにすれば、「輸出入の段取り」を調整する相手が目の前にいれば、これほど心強いことはないと思います。
ライター: 植草 啓和(JBマーケット)
優れた日本の商材を国内、海外へ。
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