FDA査察の事前通知を受けた後、経営者の方よりFDA査察対応の支援依頼を受けて、一緒に準備することになりました。
とは言え、何をどのように、どこまで準備すべきなのか?
査察の準備 のために参考資料を読み解き、過不足の無い対処方法を考えてみました。
査察の準備: 過去の査察指摘事項を把握する
具体的な準備において、まず検討したのが、以下の点です。
それは、「FDA査察への対処 – 査察の事前通知」でご紹介した、T社や他社の事例にもある「査察リハーサル」の実施、査察準備文書のリストアップ、これまでの査察指摘事項の事前把握、です。
- 査察リハーサル:
- 査察準備文書のリストアップ:
- 査察指摘事項の事前把握:
これは専門会社へ依頼することになりました。
JETROセミナーでも講演を委託されている会社です。
「(2)FDA査察ガイドブック」の「査察準備文書例」が参考になりました。
「(2)FDA査察ガイドブック」にも「よくある観察事項」について多少の記載があります。
FDA観察事項とは?
FDA査察では、どんなことが「観察」されて、「評価」されるのか。
T社事例や「(2)FDA査察ガイドブック」にも記載があります。
しかし、指摘事項の項目名だけで、具体的な内容がわかりません。
「査察リハーサル」の前に、ある程度、つかんでおきたい、と考えました。
そのため、FDAのホームページを見てみることにしました。
(ご参考)FDA観察事項 Inspection Observations
https://www.fda.gov/ICECI/Inspections/ucm250720.htm
ここに、各指摘事項の説明が記載されています。(残念ながら、英語のみ)
指摘件数の多い事項について、少なくともカバーしておくことが必要だと考えました。
ちなみに「(1)T社のケース」での指摘事項もその中に含まれていました。
もちろん、この指摘事項だけをカバーすれば良い、というものではありません。
本来は、「米国FSMA(食品安全強化法)」などの法律・規則に沿って食品安全に努め、その上で査察を受けて、たまたま指摘を受けた点がこの指摘事項になります。
その点については、ご注意ください。
食品安全強化法に沿った対応準備
懇意にしているこの会社では、以前から品質管理の徹底に注力してこられていました。
ISO22000、そしてHACCPに対して、品質管理部門を設置し、担当者は社外セミナーや講習会に参加し、PCQI(予防管理適格者)の資格を取られていました。
担当者の方と相談して、以下の点について対応することになりました。
- 査察リハーサルを外部専門家に依頼し、実施
- 食品安全計画の見直し
- 査察準備文書の整理
ここでは、食品安全計画、管理マニュアル、管理プロセス、各種管理簿の取り扱いなどについては、詳しく述べません。
あくまで、FDA査察にあたっての準備作業やポイントについてお話しします。
この点、ご留意ください。
他社事例を参考にすると、すべての文書を英語化する必要はなさそうです。
そのため、
- すべて英語化するもの:
- タイトルだけ英語化するもの:
- タイトルと目次だけ英語化するもの:
- 資料は、クリアファイルやバインダーで、日本語と英語が左右対比できるようにセット
- 当日、査察官から質問を受けたり、英語化を求められた箇所のみ、その場で英語化・通訳して対処する
過不足の無い範囲を見極めた上で、翻訳する。
メモプリで印刷した英語ラベルを日本語文書に添付する。
目次は対比できるようにする。
ということにしました。
Day-78: 査察内容確認メールが届く
査察事前通知から約2カ月後に、査察日程、施設住所、受入状況などの確認がメールが送られてきました。
- 査察日は、約2.5か月後に実施予定
(つまり、事前通知から約4.5カ月後に査察が実施されます) - 日程調整は、不可!
- 英語通訳を用意してほしい
文面は、事務的な表現でした。
どうやらFDAにとって都合のよい査察を受け入れさせる意図と、こちら側がどこまで従順なのかを推し量る意図、があるようでした。
特に、英語通訳については、既に「施設概要確認書」にて「当方で用意できない」と回答済みです。
そこで、日程は受け入れるが、英語通訳は用意できない、と明示するべきだと判断しました。
(もちろん、FDA担当者の気分を害しない程度に、回答しなくてはなりません。)
補足しますが、「(2)FDA査察ガイドブック」には、以下の記載があります。
「査察の通訳は、FDA側が手配する(費用はFDAが負担)場合や、自社社員を充てたり、専門の通訳会社や提携先のコンサルタント等に依頼したりすることが多い。
FDA側に通訳を手配することになっている場合、確実に手配しているかどうか、査察前にFDAに確認しておくとよい。
なお、FDAが手配する通訳は、米国人である(日本人ではない)ことが多く、受検施設へのヒアリングによるとその通訳レベルには差があるとのこと。」
「食品の製造工程、設備、衛生基準等、専門的な用語の日英通訳が必要となるため、通訳者は英語に堪能というだけでなく、当該商品の知識や米国の食品安全の考え方への理解が必要となる。
特に、外部業者に依頼する場合は、事前の打合せが重要となる。」
(出典)JETRO「FDA査察ガイドブック(第2版)」
私も多少は英語を使えますが、食品製造工程や食品衛生基準などの専門用語には不慣れです。
そのため、FDA側で通訳を用意していただき、通訳が説明できない点に注力すべきだと判断しました。
そこで、
- 大変残念だが、当日、英語通訳を用意できない
- 先日の「施設概要確認書」にて回答したので参照してもらいたい
- それ以外は、ご指摘通りでOK
といった内容の回答を作成し、担当者から送ってもらいました。
さて、残りの2カ月間、本格的に準備作業に入ることになりました。
その内容を箇条書きにすると以下のようになります。
-
< 前々月 >
- 書類整理(一部資料の英語化など)
- 査察リハーサルの準備(リハーサルにおける確認事項のリストアップ)
- 査察リハーサルの実施
- 査察リハーサルの指摘事項への対応
- 査察準備資料の準備最終化(英語化など)
- 査察当日の体制・スケジュールの詳細化
< 前月 >
この中で、特に重要だと思われたのは、「査察リハーサル」です。
これによって、実際の査察プロセスを具体的に想定し、準備できるようになります。
ライター: 植草 啓和(JBマーケット)
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