前回「顧客を探す ( 市場調査 )」 に続き、「 展示会・商談会 の 活用方法 」について説明したいと思います。
展示会・商談会 をご存知の方も多いでしょう。
しかし、実際に出展するとなると、そのための準備作業が多く、後々になって「あれもやっておけば良かった」と後悔することも多いのではないでしょうか。
なるべく手戻りを少なくして、過不足のない準備をするためには、事前に考えておくべきことがあります。
展示会・商談会 は、何のためにある?
海外進出のために、国内・海外の展示会・商談会に参加された方もいらっしゃると思います。
国内の東京ビッグサイト、幕張メッセ、インテックス大阪など開催される展示会は、種類も数も多い。
ところで、展示会への出展目的は、何でしょう?
「そりゃ、売ることだよ!情報収集と言っても、売るための手段さ」と思った方も多いでしょう。
少しかっこよく「マーケティングだよ!」と言われる方もいらっしゃると思います。
その通りだと思います。
こだわりの商品・製品をお持ちの中小企業は、販路開拓のために、営業マンを雇ったり、経営者自らトップ外交を繰り広げています。
それに対して、マーケティングは、「顧客のニーズを把握して、おのずから売れるようにする仕組みや仕掛け」を指します。
言い換えれば、「営業マンを使うのではなく、仕組みや仕掛けを使う」ということ。
展示会は、消費者向けの取引(B2C取引)だけでなく、もっと広く企業間取引(B2B取引)を対象にした「仕組みや仕掛け」と言えるかもしれません。
ここに出展することで、さまざまな取引や提携の機会を得ることができます。
そこは、売り手と買い手が集まる「市場(しじょう。マーケット)」でもあります。
つまり、単なる売買だけではありません。
価格だけで売買できるなら、インターネットを使えばよいかもしれません。
展示会では、価格以外についても確認・問合せ、相談、さまざまな引合いが行われます。
しかも、対面で相手の人となりを確かめながら、取引を固めていきます。
特に企業間取引(B2B取引)は、取引金額が大きくなったり、取引期間が長くなったりします。
そのため、「この人とうまく商売をやっていけるだろうか」と双方が考えるのは当たり前なのかもしれません。
その点では、展示会は、「取引相手を探し、確認する場」でもあります。
その出会いを効率的に行うために、売り手・買い手が展示会に集まるわけです。
自社に関連する展示会・商談会に足を運んでみてください。
さまざまな気付きを得られると思います。
日本では、まだまだ 展示会・商談会 の活用の余地あり?
海外では、日本よりも数多くの展示会が開催されています。
それだけ、企業が取引の場を求めているといことなのかもしれません。
単純に展示会場の合計面積を比較すると、
- 米 国 685万m2
- 中 国 576万m2
- ドイツ 323万m2
- イタリア 231万m2
- フランス 219万m2
- 日 本 37万m2
:
と、日本は、かなり小規模です。
ちなみに、日本最大の展示会場は、東京ビッグサイト(9.7万m2)、世界77番目です。
- 独・ハノーバー 46.6万m2
- 中・上海 40.4万m2
- 独・フランクフルト 36.7万m2
- 伊・ミラノ 34.5万m2
- 中・広州 33.8万m2
- 中国・昆明 31.0万m2
などに比べてもかなり小さい。
日本の展示会場面積が、企業間取引の活発度合を指すほど、話は単純ではないかもしれません。
しかし、ドイツやフランスのたった1/6というのは、寂しいですね。
むしろ、日本を除く先進国では、なぜそこまで展示会が流行っており、広い展示会場が必要なのかを考えるべきかもしれませんね。
中小企業は、もっと展示会や商談会を活用しても良いのではないでしょうか。
売り手(サプライヤ)として、また買い手(バイヤ)として、様々な情報や商品や同業他社が集まってくる「市場」「マーケティングの仕組み」を活用しても良いのではないか、と思います。
そして、海外での販路開拓の場合では。
日本以上に、海外の商売相手は、この展示会・商談会に慣れ親しんでいます。
海外での販路開拓を効率的・効果的に行うのであれば、いずれ展示会・商談会を活用せざるを得ない局面が来ると思います。
例えば、販売ポテンシャルのある国を探す場合、個々の国を市場調査することが考えられます。
一方で、自社の商品の価値を認めてくれる国とバイヤーを探すために、国際的な 展示会・商談会 を活用することが、実は効率的な近道なのかもしれません。
また、運よく限られたバイヤーに価値を認められて取引が始まった、としましょう。
その国で販売量を伸ばすため、さらに販路を増やすには、新たなバイヤーとの出会いが必要になってきます。
その時は、その国で開催される展示会・商談会を活用することが、効果的になります。
いずれ避けて通れないのであれば、なるべく手戻りなく、展示会・商談会を活用すべきです。
なぜなら、それだけのコスト、手間、時間を掛けるのですから。
十二分に 展示会・商談会 を活用するために
国内で一般化している展示会・商談会では、その成功の尺度は、以下で測られているようです。
- 新たに締結した取引額
- 名刺の数(特に興味を示し、取引確度が高い潜在顧客)
もちろん、すぐに取引確定と、いかないケースも多いでしょう。
- 取引相手の与信を確認
(企業情報データベースや金融機関を通して調査) - 取引口座の開設
- 取引基本契約の締結
などのステップを踏んで、ようやく取引スタート、ということもあります。
そのため、後日、営業マンのローラー作戦で、個別に営業を掛けていくため、「名刺」が重要になっています。
「名刺」を基にして、見込み客リストを作り、追加情報としてのパンフレットや見積を送付する。
さらに、電話を掛けてアポを取り、営業マンが取引先を直接訪問。
一般的な流れは、以上のようだと思います。
ところで、
展示会・商談会に出展したけれど、コストを掛けた割に取引が増えなかった!
と、聞いたことはありませんか?
もちろん、様々な展示会ノウハウ解説書や展示会出展の秘訣書も出回っていますので、詳細はそちらにお譲りするとします。
ここでは、海外バイヤーと一緒に国内・海外の展示会を巡って気付いた「海外バイヤーの展示会・商談会の活用方法」を、いくつかご紹介したいと思います。
有望な見込み客を展示会へ招待
率直に申し上げて、大半の来場者の目的は、「情報収集」なのではないでしょうか。
成り行きにまかせても、取引に結び付く確度は、たぶん低いはずです。
むしろ、本気で取引を求めてくる顧客は、展示会の出展社・商品検索を使って、当たりをつけてきます。
場合によっては、事前に連絡してくることもあります。
仮に、既に有望な見込み客をお持ちなのであれば、事前に展示会にご招待して会場でじっくり説明した方が取引確度が高くなります。
見込み客によっては、さらに特別待遇しても良いでしょう。
私の知り合いの海外バイヤーは、「展示会の昼のビジネスランチ、夜の会食こそが、取引の場だ」と強調していました。
わざわざ海外あるいは地方から展示会場へ集まるのだから、ホテル宿泊が前提となることが多い。
家族を気にせず、昼はもちろん夜までビジネスに使える
のだそうです。
そして、そのような特別な取引相手とは、展示会の期日以前に、アポを取り付けておきます。
名刺の数ではなく、見込み客との潜在的な取引予想額とアポの数が展示会成功の指標ということになります。
つまり、展示会は「取引締結のスタート」ではないのです。
取引締結のスタートはもっと前から仕込んでおいて、展示会を「取引締結のクロージングの場」として使っているのです。
未発表の新商品の事前確認
展示会で、出展者のブースに一緒に立ち寄ると、そこでの商談は、以下のようなものでした。
- 新しい商品の情報
- 現在開発中の商品の情報
- 競合他社の動向
- 顧客ニーズの変化
- 既存商品に対するリニューアル依頼、など
つまり、既得意客や有望な見込み客については、商談スペースに招き入れて、一緒になって商品を考えてもらうのです。
展示会は、既存の商品を売りつけるのではなくて、「テスト・マーケティングの場」になっていました。
発言内容によっては、取引相手の本気度もわかりますし、取引相手がどれだけの情報を持っているのか、もわかります。
そして、取引における互いのコミットメント(責任のある約束)を確認するのです。
さて、出展者からすれば、どのような準備をしておくと良いでしょうか。
そうなんです。
この「展示会期日」に合わせて、新商品を発表したり、商品開発担当やマーケティング担当を商談の場に立ち会わせて、より戦略的な情報収集を行えるようにすることも。
もちろん、新規客の獲得も行います
私の知り合いの海外バイヤは、展示会後半の予定をなるべく空けていました。
突発的なアポが入ることもあり、またアポが入らない場合は、自ら展示会を巡り、取引先の開拓を行っていました。
しかし、その場で決めることは、ほとんどありません。
展示会では名刺交換はするけれど、突っ込んだ商談はしない。
なぜかって?相手を信頼するには時間がかかるからね。
経験と勘だけでも駄目だ。
(サプライヤを)訪問して、会社の状況や働いている人と話すなど確認してからだね。
(米国食品輸入卸)
彼の場合は、自社の調達担当者にバトンタッチし、時間を掛けて調査分析を行わせます。
そして、冷静になり客観的になって、あらためて経営者として最終判断を下す。
仮に取引が、展示会で再会する翌年になっても仕方がない、いずれにしろ新規であれば対面商談でないと決めたくない、とのこと。
いかがでしょうか。
展示会への取り組み方として、ご参考になれば幸いです。
海外バイヤからよく聞かれることとは?
海外バイヤが集まる展示会・商談会に参加していると、まず海外バイヤから聞かれることは、以下のようなものです。
(特に、現地の輸入卸などの場合を想定しています。)
- 商品の品質
- ストーリー(技術、こだわり、歴史・伝統、地域性など)
- 海外での販売実績(国やエリア、販売量など)
- 日本での販売実績(販売量、知名度、評価、競合など)
もちろん、のっけから卸価格(FOB価格やCIF価格など)を尋ねてくるバイヤもいます。
それは、よほど取引意欲が高い場合か、単なる情報収集か、のいずれかでしょう。
本気になっている海外バイヤは、
「この商品は誰に売れるだろうか」
「売るためには何を伝えたらよいだろうか」
などと考えています。
つまり、彼らが顧客に商品を説明するための「キーワード」「キャッチフレーズ」を求めているのです。
その言葉が、商品の本質をずばり言い当てていて、なおかつシンプルであればベスト。
この点は、国内のバイヤーとも同じ対応をすべきかもしれません。
海外バイヤから国内での知名度を尋ねられた!
海外バイヤへの販路拡大のために、展示会へ出展する理由の一つとして、「海外での販売実績を付けて、ブランド力を付けよう」と考えられている方もいらしゃるとおもいます。
海外バイヤから「ところで、国内での知名度は?」と尋ねられることもあります。
販売実績があれば、それをお答えいただくのが良いでしょう。
あるいは、業界の品評会で受賞履歴、メディア掲載の事例、有名人のリピーター、など。
しかし、こだわりの商品ほど、国内そして海外での知名度はそれほど高くない、というケースが多いのではないでしょうか。
そうなると、海外バイヤも二の足を踏んでしまいます。
「知名度を得るためには、現地で売らなければならない」
「現地で売るためには、知名度を上げなければならない」
ここでも「ニワトリと卵、どちらが先か」の問題になってしまいます。
もちろん、大企業なら、資金を投じて宣伝広告を打つこともでできるでしょう。
しかし、中小メーカがそこまでの費用を掛けリスクを取るのは、現実的に難しいと思います。
最近では、海外のアマゾンなどのECサイトに直接、出品する「越境EC」という荒業もあります。
それでも、まだ使ったこともない商品をすぐに買ってくれるには、もうひと工夫が必要なのではないでしょうか。
つまり、「まだ見ぬ顧客に知っていただく」ひと工夫です。
実は、「インバウンドを活用して、知っていただく」という手があります。
かんたんにご紹介いたしましょう。
インバウンドや口コミを活用する
最近、メディアでよく聞く「インバウンド」とは、外国から日本への観光客を指します。(Wikipediaより)
厳密には、外国人旅行者だけでなく、外国人労働者も含めた「訪日外国人客」を指す場合もあるそうです。
この外国人旅行者が、日本国内の津々浦々にまで進出するようになってきました。
時には、私たち日本人ですら知らないような場所にまで。
彼らが参照している情報は、「口コミサイト」と呼ばれています。
- 一般的なSNS:
フェイスブック、ユーチューブ、インスタグラムなど - 海外ローカルなSNS:
中国の微博(ウェイボー。中国版フェイスブック)、優酷、土豆(中国版ユーチューブ)など - 一般的な旅行口コミサイト:
トリップアドバイザーなど - 海外ローカルの旅行口コミサイト:
中国の蚂蜂窝(マーファンウォー)、韓国のネイバーカフェ、台湾の背包客棧(ベイバオカージャン)など
このような口コミサイトに情報を載せてもらうこと。
そして、いわゆるインバウンド対策を行って、外国人旅行者を誘致すること。
口コミは、少しずつですが、蓄積し、拡散していきます。
もちろん、それなりに手間も時間もかかると思います。
しかし、考え方によっては、お金もかかりません。
顧客を探しに海外に行くこともありません。
向こうから来ていただけるのですから。
何より、「どの国に顧客がいるのか?」という市場調査に代わりにもなります。
海外バイヤに対して「口コミ」という知名度を示すことができれば、しめたものです。
次回は、「展示会・商談会のアフターフォロー」についてご説明いたします。
ライター: 植草 啓和(JBマーケット)
優れた日本の商材を国内、海外へ。
https://jbmarket.jp