2019年9月20日、ラグビーワールドカップが日本で開催されます。
総観客数は、約200万人。
東京オリンピックは、約1000万人を想定していますから、1/5ほど。
出場国には、中国・韓国が含まれず、イギリス・フランス・アメリカ・オーストラリア・南アフリカなど。
つまり、より遠方、より富裕層の多い国々の観客が、中心となります。
東京オリンピックと異なり、開催場所は、北海道から九州まで。
しかも、長期間滞在するため、さまざまな観光機会も大きい。
ある意味、東京オリンピックよりも商機が大きくなるかもしれません。
今回は、ラグビーW杯に関するインバウンド対策のノウハウをご紹介します。
前回2015年のワールドカップは、イングランドで開催されました。
W杯2度の優勝を誇る世界ランキング3位の南アフリカに勝利し、ジャイアントキリング(大金星)と呼ばれたことを記憶している方も多いでしょう。
このラグビーワールドカップは、オリンピック、サッカーワールドカップに次いで、世界三大スポーツ大会の一つと言われています。
これまでの総観客数の推移は、以下のようになっています。
- 2007 フランス 226万人
- 2011 ニュージーランド 148万人
- 2015 イングランド 248万人
- 2019 日本 約200万人(推計)
推計では、海外から約40万人の観光客が、W杯観戦のために来日すると言われています。
さて、オリンピックとラグビーワールドカップの、決定的な違いは何でしょうか?
それは、参加国が、各地区予選を勝ち抜いた20チームに絞られているところでしょう。
気になる出場国は?
しかも、1国1チームでもありません。
ラグビー発祥のイギリスの場合は、ちょっと特殊です。
イギリスの正式名称は、the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland、つまり「グレート・ブリテン及び北部 アイルランド連合王国」となります。
そのため、イギリスの出場チームも、アイルランド(世界ランキング2位)、ウェールズ(同3位)、イングランド(同4位)、スコットランド(同7位)と、4チームになります。
さて、そんな出場国を、経済規模で並び替えると、以下のようになります。
- アメリカ 59,501.11
- オーストラリア 55,707.28
- ニュージーランド 41,593.06
- フランス 39,869.08
- イギリス 39,734.59
- 日本 38,439.52
- イタリア 31,984.01
- ウルグアイ 16,722.41
- ロシア 10,608.16
- 南アフリカ 6,179.87
- フィジー 5,740.26
- サモア 4,253.34
- トンガ 4,176.71
- ジョージア 4,098.62
これを見て、あれ?ともう気付かれたことと思います。
そうなんです、訪日外国人ランキングでトップ3位を占めている、中国・韓国・台湾は出場しません。
2018年11月、敗者復活最終予選が行われて、最終的な出場国20チームが決定します。
敗者復活最終予選の出場国は、以下のようになっています。
- 香港 (世界ランキング21位)
- カナダ(同23位)
- ドイツ(同29位)
- ケニア(同28位)
(世界ランキングは、2018年10月29日 ワールドラグビーによる発表内容より)
つまり、訪日外国人第4位の香港は、2018年11月11日、17日、23日の敗者復活最終予選を4チーム総当たりで対戦し、1位になれば出場できます。
まだ、予断を許さないところ。
11月23日に、仏・マルセイユで敗者復活最終予選が行われ、結果は「香港10-カナダ27」。
これで、アジアは、オーストラリアと日本のみ、となりました。
大中華圏がひとつも残らなかったのは、誠に残念。
(バランスという観点からです、もちろん。)
一方で、カナダは、
- 外国人旅行者数:30.5万人(英国とほぼ同じ。フランス、ドイツを凌ぐ。2017年)
- 日本人在留人数:7.0万人(タイとほぼ同じ。英国、ドイツ、フランスを凌ぐ。2016年)
- 一人当たりGDP :45,094ドル(ドイツ、フランス、英国を凌ぐ。2017年)
となり、欧米系の中では、アメリカの次に近く、経済力もあります。
ラグビーW杯2019をきっかけとして、カナダからの渡航者が増えて、輸出が伸びることを期待したいですね。
2015年、イングランドのラグビーW杯が開催されましたが、その内容を調べてみましょう。
前回イングランドW杯2015の結果はどうだった?
英国アーンスト&ヤング社が、レポートとしてまとめています。
そのハイライトは、以下のようになっています。
- 開催期間 :2015年9月18日~10月31日の44日間
- 出場国数 :20か国
- 開催場所 :11都市、13会場で49試合
- 海外観客数:約40.6万人
- 海外観客一人あたりのチケット購入枚数:
平均2~4枚 - 平均滞在日数:
14日間 (遠方からの旅行者)、
3~4日間(欧州からの旅行者) - 海外観客一人当たりの消費額:
平均2,400ポンド(1ポンド=185円で約44.4万円)(その内訳)
- 宿泊費:28%
- レジャー活動費:24%
- 飲食費:20%
- 交通費:16%
- 買い物:11%
(出典:英国アーンスト&ヤング社)
もちろん、イギリスは観光先進国ですから、各地でお祭り広場(ファンゾーン)を設置し、チケットを持たないファンと一緒に観戦したり、ファンの交流を促したりと、できるだけのことをやっていたようです。
ただ、残念なことに、欧州勢は、準決勝を前に全チームが敗退してしまいました。
もしも、準決勝・決勝で欧州勢が残っていれば、さらに経済効果を押し上げたはず、と言われています。
ちなみに、この試合日程44日間のうち、「試合のない日」は、なんと19日間もありました。
特に、準々決勝から準決勝までの間に5日間、準決勝から決勝までの間に4日間。
遠方からの旅行者は、開催地だけにとどまらず、イギリス全土の各都市へも足を延ばして観光していました。
その結果として、海外観客一人当たりの消費額が、平均2,400ポンド(前出 44万円)になったのでしょう。
この点は、とても重要だと思います。
後ほど、日本の場合もご紹介します。
一方で、開催国となったイングランドでは、インバウンドに関するアンケート調査は以下のような結果になりました。
- Q「イングランドでの体験の評価は?」
72%が9点以上 - Q「もう一度訪れる可能性は?」
69%が9点以上 - Q「友人、家族、同僚に旅行先としてイギリスを薦める可能性は?」
53%が9点以上
(出典:英国アーンスト&ヤング社)
つまり、ラグビーワールドカップをきっかけとして、将来的なインバウンドにつながる口コミ効果も期待できる、ということです。
さて。
2019年、日本のラグビーW杯では、いったいどうなるのか?
日本のラグビーワールドカップのキーポイントとは?
- 開催期間 :2019年9月20日~11月2日の44日間
- 出場国数 :20か国
- 開催場所 :12都市、12会場で48試合
- 海外観客数:約41万人
(2016年5月 日本政策投資銀行 の推計値より)
ちなみに、東京オリンピックの開催期間は、17日間。
それに対して、44日間とは、倍以上の長さ。
気になる「試合のない日」は、44日間のうち18日間もあります。
大会は、予選プール40試合、と決勝トーナメント8試合に分かれます。
この予選プールは、10/13日に終わりますが、決勝トーナメントが始まる10/19土までの間、5日間は試合がありません。
そして、準々決勝10/20日と準決勝10/26土の間の5日間も同様に、試合なし。
11/1金の3位決定選、11/2土の決勝戦までの間も、試合が行われません。
そして、問題は、日本国内の開催場所です。
北海道から九州まで、12箇所で48試合が行われることになります。
開催場所の多い場所から並べると、以下の通りになりました。
- 調布(東京) 8試合(24,000人)
- 横浜(神奈川) 7試合(72,327人)
- 大分(大分) 5試合(40,000人)
- 袋井(静岡) 4試合(50,889人)
- 豊田(愛知) 4試合(45,000人)
- 神戸(兵庫) 4試合(30,312人)
- 東大阪(大阪) 4試合(30,000人)
- 熊谷(埼玉) 3試合(24,000人)
- 福岡(福岡) 3試合(22,563人)
- 札幌(北海道) 2試合(41,410人)
- 熊本(熊本) 2試合(32,000人)
- 釜石(岩手) 2試合 (16,187人)
特に、大分・福岡・熊本など九州は、10試合も開催されます。
準々決勝は、調布と大分で行われます。
つまり、準々決勝を含む、10/14月~10/25金の間は、全国各地にラグビー観光客が拡散するものと思われます。
では、ラグビーサポーターは、どんな動き方をするのでしょうか?
以下は、これまでの個人的な経験(ヨーロッパ4年駐在)や各国情報を踏まえて、大胆に想定してみたいと思います。
ラグビーサポーターの動き方を考えてみましょう!
欧米では、長期休暇(バカンス)を取ることが一般的です。
長ければ、2カ月ほど休暇を取ることも可能。
特に、富裕層は、特別な体験や感動を大切にして、いくつもの旅行テーマを持って念入りに動き回ります。
ラグビーW杯では、各国のラグビーサポーターが大会期間中ずっと滞在することになるでしょう。
強豪チームのサポーターは、それぞれのチームカラーのシャツを着ているので、ある程度見分けることができます。
- ブラック: ニュージーランド
- グリーン: アイルランド
- レッド: ウェールズ
- ホワイト: イングランド
開催期間中は、白黒赤緑のいくつもの団体が、入り乱れることになるかもしれません。
さて、サポーターは、団体ツアーと個人手配旅行に分かれます。
富裕層は、たぶん個人手配旅行が多いものと想定されます。(あくまで想定、です。)
これまでの経験では、サッカー、ラグビーのW杯では、サポーターは、試合の前からスポーツバーやパブなどで気合を入れ気勢を上げて、盛り上がります。
少々失礼な話で恐縮ですが、試合当日は、「町中のビールが売り切れた」「試合会場の周辺が〇〇臭かった」なんていう噂が聞かれることもあります。
しかし、サッカーと異なり、ラグビーの場合は、フーリガンのような暴動が起こったと聞いたことはありません。(記憶する限りでは)
そして、ラグビーのデイゲームは、12試合のみ。
大抵は、夕方以降のゲームになります。
となると、試合会場を持つ各都市では、それなりの飲食需要が高まるものと思われます。
少なくとも、英語メニューなどを用意しておく必要があるか、と思います。
日本でのラグビーW杯開催に合わせて、さまざまな旅行情報も各国語で掲載されています。
その内容を調べてみると、「和食」、特に寿司やラーメンなどから始まり、いろいろな料理が紹介されています。
それぞれの飲食店が、料理の専門性を売りにしている、とも。
長期間滞在する外国人観光客にとっては、アルコールと和洋折衷の料理を出す居酒屋なども人気が出てくるものと思われます。
私は、和食だけでどれだけ我慢できるか、というと、たぶん一週間は持たないと思います。
そのため、それぞれの国の食事(一概に洋食と一くくりにできないかもしれませんが)に対するニーズやリクエストは高いと思います。
そして、海外でのスポーツ観戦では、試合前後のアルコールがつきものでしょう。
定番はもちろんビールですが、地ビール、日本酒、焼酎、ワイン、ウィスキー、梅酒、チューハイなどのリキュールといった、さまざまなアルコールを宣伝する良い機会になるでしょう。
なるべく試飲しやすくするように、グラスでの提供や複数種類の利き酒などの工夫が求められるかもしれません。
せっかく来日してもらったのだから、日本でファンになってもらうことが重要だと思います。
その点については、「インバウンドを商売に活用」にて詳しく説明しています。
そちらもご参考ください。
土産物としての購入は、あまり期待できそうもない?!
ちなみに、遠方から来られた旅行者に、さまざまな土産物を購入してもらおうという場合は要注意です。
旅行用のスーツケースは、長期滞在のための洋服、自分が使っているシャンプーや化粧品・薬などのアメニティなどで一杯のはず。
そこに、瓶や缶や箱などの大きな土産物は入りません。
先進国の場合は、知り合い縁者への土産物を多く購入して分けるという習慣もあまり聞きません。
せいぜい、個人的な記念品にとどまります。
いわゆる、スーベニア、というやつですね。
むしろ、よほど気に入れば、彼らは、箱単位でも購入し、費用を払って国内の最終宿泊先に送ってもらったり、現地まで別送品として送らせるでしょう。
そのような手続きについて、事前に準備しておく方が重要かもしれません。
また、個人的に土産を買う場合であっても、スーツケースに詰め込むことを考えれば、
- 圧力がかかっても壊れない・漏れないもの
- 軽い、薄い、短い、小さいもの
- 消費期限が長いもの
が好まれることになります。
つまり、食品で言えば、
- 小包装
- レトルトパック
- フリーズドライ
ということになりそうです。
仮に、かさ張るものを購入してもらうのであれば、最後のチャンスである「空港の出国手続きの後」の免税店にて、機内持込用手荷物として購入していただくことだと思います。
もしあなたの商品が、既に海外現地で購入できるのなら「現地販売店の情報」を渡す方が良いかもしれません。
そして、これも重要だと思いますが、日本の物価は、日本以外の先進国にとって、とても安くなっていることを認識してください。
商品値付けの際には、ご考慮いただければ、と思います。
その点については、以下をご参考ください。
インバウンドや食品輸出の点で、どんなメリットがある?
2017年の訪日客による消費額は、前年比で約18%増の4兆4162億円と過去最高額になりました。
ところが、訪日外国人の一人あたり旅行消費額は、2年連続減少して、15万3921円になっています。
その理由は、いくつか指摘されています。
- 中国人旅行者の爆買いが一巡
- 旅行消費額が比較的小さい、東南アジアの旅行者が増えてきた
- モノ消費に代わるコト消費の観光コンテンツがまだ少ない
その他、特に重要だと思われるのが、
「宿泊日数が長く、旅行消費額が大きな、欧米の旅行者が増えていない」
ことだと言われています。
以下では、今回の出場国を、「訪日の際の一人当たり消費額」の順にならべてみました。
通常は、宿泊費や買い物代を含めるのでしょうが、あえて観光に焦点を当てて、「飲食と娯楽サービス」にまとめてみました。
- オーストラリア 64,155円 (12.8泊)
- イギリス 58,100円 (12.7泊)
- フランス 53,159円 (13.8泊)
- ロシア 50,573円 (10.3泊)
- 米国 48,394円 (10.0泊)
(ご参考)
- 中国 43,835円 ( 6.1泊)
- 香港 37,757円 ( 5.6泊)
- 台湾 30,462円 ( 5.1泊)
- 韓国 22,100円 ( 3.2泊)
つまり、ヨーロッパやオーストラリアからの旅行者の平均宿泊日数は、およそ2週間近くになります。
近隣の中国・香港・台湾・韓国の1週間以内の旅程の倍の長さにあたります。
そして、日本よりも遠い国から来日した観光客は、飲食や娯楽サービスをどんどん体験し、その対価を支払っているわけです。
宿泊日数が長いこと。
そのため、深く日本と日本人に接することができること。
2019年ラグビーW杯は、まさにそのような遠方の国の日本ファンを増やす、絶好の機会なのかもしれません。
欧米人から見れば、日本はまだ極東
歴史を紐解けば、日本とイギリス、日本とフランス、日本とアメリカの関係は、政治・経済・文化とあらゆる点で深く結びついています。
各国の有名人にも、親日派は少なくありません。
しかし、風光明媚な自然と美しい四季に恵まれ、世界遺産の登録も多く、ユネスコ文化遺産として和食が認定されたとしても、欧米からの観光客はまだ少ない、と感じる人も多いのではないでしょうか。
観光という点で、タイ・インド・シンガポールに比べると、そう思わざるをえません。
あらためて、出場国を記載した世界地図を見ると、見事に日本の周りは空白になっています。
大西洋を中心とした欧米世界から見れば、やはり日本は「極東の島国」。
観光でもなかなか行きづらい国の一つだと思います。
一方で、海外旅行の最前線は、欧米人が切り開き、アジア各国がそれに追随する、とも言われています。
海外ツーリスト情報の有名どころと言えば、フランスのミシュラン、イギリスのマレー、アメリカのフロマーズ、オーストラリアのロンリープラネットなど。
2007年、欧米を除いて初めて、日本でミシュランの星付きレストランが登場し、既に10年が経過しました。
ようやく欧米ツーリストのすそ野が、極東の日本に及びつつあるのではないでしょうか。
そして、海外旅行や海外スポーツ観戦が、より身近になった今、本当の意味での輸出・観光大国になる、ちょうど過渡期に我々は来ているのかもしれません。
この、ラグビーW杯、そして東京オリンピックを一過性の単発イベントで終わらせぬよう、さまざまな打ち手を講じていく必要があると思われます。
一緒に、がんばりましょう。
ライター: 植草 啓和(JBマーケット)
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