FDA査察への対処 (4) 査察対象の資料 一覧

FDA査察への対処 (4) 査察対象の資料
FDA査察への対処 (4) 査察対象の資料

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FDA査察が3週間後に迫ったある日、査察担当官からメールが届きました。
そこには、 査察対象の資料 が一覧表になっていました。
これを、すべて翻訳する必要があるのだろうか?
査察日直前までの準備は、いよいよ時間との闘いになってきました。

 

どこまで翻訳しておくべきか?

Day-78の査察内容確認メールでは、2ヶ月前に査察出張コーディネータから査察担当官の宿泊ホテルと送迎手配について、1ヵ月前に査察担当官から直接メールが届く、との案内がありました。

実は、それまでどこまで資料を翻訳しておくべきか、について、だいぶ悩んでいたのです。

専門コンサルタントによる、査察リハーサルとフィードバックの際に、確認したところ、「担当官による」という回答でした。

そのコンサルタント曰く、かなり細かい点まできっちりと確認してくる担当官もいれば、かなり大らかに査察される担当官もいる、とのこと。
不明な点は、その場で通訳の方が英語に翻訳してくれるようです。
では、どこまでそのFDA通訳に頼ることができるのか。

例えば、日本独自の生産技術や生産現場特有の言葉遣いや表現をストレートに英語に翻訳されてしまうと、変な誤解を受けかねない、とも考えました。

「だったら、準備する資料、翻訳しておく資料を担当官に聞いてしまえば良いのでは?」と考えるようになりました。
悩むより、聞いてしまえば、早いじゃないか、と。

では、FDAには、どんなタイミングで「査察対象の資料」を確認すべきでしょうか?
担当官にあまり早く質問すると、「できればこれだけの資料を翻訳してもらうと良い」「事前に翻訳して送ってほしい」とヤブヘビになるかもしれません。

結局、まず前出した「(2)FDA査察ガイドブック」に箇条書きにされていた、他社事例での準備文書の一覧を参考に、最低限必要と思われる文書のみ翻訳することになりました。
あとは、担当官からのメールが届いてから、最後の対応を考ることにしました。

 

Day-22:FDA担当官からのメール

そして、約3週間前に、その担当の査察官からメールが届きました。

  • 簡単な自己紹介
  • ホテルから工場までの送迎の確認
  • 工場内部の査察にあたって、査察官と通訳の二人の作業衣と靴の準備の依頼
  • 査察の際に閲覧したい情報一覧

この最後の「事前準備の情報一覧」を拝見して、正直に言いますが、かなりしびれました。
HACCPプランを含めてなんと約30項目もあり、資料を集めて整備するだけでも、かなり時間がかかることが予想されました。

残された時間は、あと3週間。
まずは、この一覧表を急いで翻訳して、品質管理の担当の方に資料の準備・作成をお願いすることにしました。

以下、リストアップいたします。

 

査察対象の資料

閲覧を求められた情報一覧
  1. 会社正式名称、会社正式名称が確認できる法的文書のコピー(事業の許可証など)、会社法人格(個人経営、株式会社、など)
  2. 会社住所、会社住所(郵送のための住所)、会社電話番号、FAX、ホームページURL
  3. 会社代表者
  4.  氏名、電話番号、携帯番号、メールアドレス

  5. 会社及び関連会社の歴史・沿革
  6. 会社が保持している工場一覧
  7.  工場名、住所、製造している主な商品

  8. 組織図(役職名と氏名が記載してあるもの)
  9. 製造部門の組織図
  10.  (各セクションの責任者名と分掌範囲が記載されたもの)

  11. 以下の役職員の分掌範囲がわかるもの
  12.  社長、副社長、工場長、品質管理責任者、製造部門長。
     工場所在地にいない場合は、その所在地住所。

  13. 製造時間(シフト状況がわかるもの)、本社業務時間
  14. 会社従業員数
  15. 会社敷地レイアウト/Map(1枚もの)
  16.  主要な建物が記載されていること(受入、製造、原材料保管エリア、最終製品倉庫、出荷、保守道具倉庫、化学薬品保管エリアなど)

  17. 会社の敷地面積
  18. 製造エリアのレイアウト/Map(1枚もの)
  19.  製造エリア、機械を「製造機械の一覧」の番号で示したもの

  20. 製造機械の一覧
  21.  メーカー名、型番、製造番号、使用している製造ライン

  22. 製造フロー・ダイアグラム(製造ライン毎)
  23. 製品輸出国リスト
  24. 過去2年間の米国に輸出している製品リスト
  25.  取引先/卸、出荷数量、ロット番号、出荷日。
     最新の出荷書類の控え(米国出荷した製品の出荷書類)

  26. 商品一覧リスト
  27.  SKU番号を付与、上位5品目がわかるもの

  28. 過去2年間の最終製品の生産実績(概数)
  29.  国内、海外輸出分、うち米国輸出分の内訳

  30. 過去2年間の海外輸出売上高の内訳(USドル換算)
  31.  各国へ輸出している全商品について、出荷頻度、各国売上高の比率

     米国へ輸出している全商品について、出荷頻度、売上高の比率

  32. 卸先リスト
  33.  会社名、担当者名、電話番号、住所、メールアドレス

  34. 米国の取引先リスト
  35.  会社名、会社住所、電話番号、(可能であれば)メールアドレス

  36. 原材料供給者のリスト
  37. 検査打合せの参加者リスト
  38.  氏名、役職名、参加日、検査打合せにおける担当

  39. 米国輸出商品のラベル見本(商品毎に4枚)
  40. 最終製品のロットNoと消費期限日がラベル印字される工程の説明
  41.  また、検査初日に製造される製品を例示すること

  42. 過去2年間のクレーム・リスト
  43.  クレームNo、クレーム内容、調査結果、是正活動

  44. 過去2年間のリコール・リスト
  45.  リコールNo、病気・障害・死亡などの事件があればそのリスト、事件の詳細な説明、FDAへの通知日、FDA受理番号

  46. リコール手順書、回収・調査の記録
  47. HACCPプラン
  48. ハザード分析表

 

実際、今あらためて眺めてみると、かなりの資料ですね、これは。
今回のように、ある程度の準備を進めておいても、書類整理には結構な時間がかかります。
実際、品質管理担当の方に、書類を整理していただいたら、厚みのあるバインダーが一杯になりました。

仮にですが、査察リハーサルも受けず、事前に資料の準備を進めておかずに、3週間前になって初めてこの一覧をもらったとしたら、と思うとぞっとします。

さて、懸案の「翻訳対象の範囲」についてです。
査察担当官宛のメール受領返信メールに、以下の内容のような文章を付け加えておきました。

「ご要望の資料をすべて英語で準備することはできそうにありません」
「どの資料の翻訳が必要ですか?」
「事前にお送りした方が良い資料はどれですか?」

すると、即日、

「英語翻訳の必要なし、通訳の方にその場で翻訳してもらうので。」
「事前に資料を送らなくても良い」
「査察の際に一部のコピーを持ち帰ることもある」

とのメールが返ってきました。

さらに2日後、担当官から「FDAの通訳に日本語化してもらった」とのことで、英語・日本語併記のリストが送られてきました。

 

査察前日までの準備

上記の中で、品質管理の担当の方とご相談し、翻訳しておくことにした資料は、以下になります。
今、振り返ってみても、この事前翻訳の範囲は、必要十分であったと思われます。

  • 会社敷地レイアウト/MAP
  • 製造エリアのレイアウト/MAP
  • 製造フロー・ダイアグラム
  • リコール手順書
  • HACCPプラン
  • ハザード分析表

まず、査察リハーサルを受けた時に気付いたのは、現場を査察するためには、レイアウトやMAPや製造フローは、英語の手元資料として必要になる、ということです。
製造現場を知らない査察担当官から、「あれは何ですか?」「この機械は?」と尋ねられて、その都度対応するよりも、英語資料として事前に渡して説明しておいた方が、査察はスムーズに運ぶはずです。
たぶん、余計な質問を受けるリスクも少なくなるでしょう。

また、米国FSMA(食品安全強化法)に照らして、ハザード分析表、HACCPプラン、そしてリコール手順書、は常備すべき文書である、と専門コンサルタントからアドバイスを頂いていました。
そこで、日本語・英語の両方で明文化しておくことが、不要な誤解を受けないための「攻めの一手」になるものと考えました。

ちなみに、この中の一部は、査察官からのメールが届く前に、翻訳に着手していたことも、付け加えておきます。
さすがに、残り3週間で翻訳するには、時間的に厳しいですから。

そして、「あとは通訳担当を通じて、その場で説明、FDAで通訳していただく」という方針を決め、腹をくくることにしました。

次回は、いよいよ「査察当日」について、です。

 

ライター: 植草 啓和(JBマーケット)
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