いよいよ 査察当日 を迎えました。
初めての FDA査察 。
これまでの準備作業の内容が、問われることになります。
2日間にわたっての査察内容について、その一部始終をご説明します。
Day-0:いよいよ FDA査察 当日 !
初日の朝は、清々しい天気でした。
暑くもなく、寒くもない。
そして、空が抜けるような天気。
ご存知の方も多いと思いますが、天気・気温・湿度・風速などの天候条件も、査察に影響します。
今回は、天候を含む様々な点で、運に恵まれていたような気がします。
さて。
査察官と通訳のお二人が宿泊するホテルまで、車でお迎えに行きました。
二人とも、とても気さくな方だったので、内心ほっとしたものです。
車内で歓談しつつ、朝の渋滞にも巻き込まれず、予定より40分以上前に工場に到着。
- 8:30~9:30 オープニング・ミーティング
- 9:30~11:30 工場内査察
- 11:30~15:30 ミーティング
(自己紹介、会社紹介、製品説明、米国輸入の商流確認)
(製造工程、原材料受入れ・保管場所、製品保管場所、製品検査場所など)
質問表に沿って、一つひとつを確認、口頭で各担当者への質問
(昼食:12:00~13:00)
オープニング・ミーティングでは、質問表にリストアップされていた書類を元にして、それぞれの担当者から説明いただきました。
書類は、ナンバーを打って整理していただいていたので、査察官から「わかりやすい」と評価いただきました。
質問に沿って、それぞれの資料を確認していくだけだったので、お互いにかなりの手間を省くことができました。
工場内査察は、査察リハーサルとほぼ同じでした。
査察受け入れ側も、2度目ということもあり、質問に対してきちんと答えていました。
想定外だったのは、製品検査場所まで査察されたこと。
検査方法や、検査目的のサンプル保管場所などをきっちりと確認されました。
その後、会議室に戻り、質問表に従って、一つずつを確認していきます。
途中、担当官が、各責任者・担当者に質問されました。
場合によって資料をご覧いただくなどの対応をしました。
特に、米国に出荷した最終ロットについて、その製品の製造工程記録、その製品に使われている原材料について、翌日確認したい、との依頼がありました。
具体的には、原材料の一つについて、その受入れの納品書から製造工程での使用と残量の記録を集めておいてもらいたい、とのこと。
該当する資料と記録について、準備をした上で、翌日に確認いただくことになりました。
また、査察当日は、製造ラインが製品変更に伴うライン切替えのため、分解洗浄していたため、製造過程を見ることができませんでした。
翌日はライン組み立てが終わるため、組み立て後について再確認したい、との申し入れがありました。
ちなみに、通訳の件です。
通訳はFDA側で手配いただいて本当に良かったと思います。
食品製造工程や食品衛生基準に関する技術的な用語、査察に関する専門用語など、よほど手慣れていないと、通訳はとても難しい、と痛感しました。
単に英語ができる・話せるだけでは、無用な誤解を生むことにもなりかねません。
私自身は、査察官と社員のやり取りにおいて、誤解を招きそうなところで補足説明するだけにとどめました。
もし、私が通訳していたら、とてもその余裕がなかったな、とひやり。
その後、査察官と通訳の方は、ホテルにて作業をされることになり、ホテルまでお送りしました。
Day+1: 査察2日目(最終日)
翌日もホテルまで迎えに行きました。
二日目になると、査察官と通訳の方ともだいぶ親しくなりました。
- 8:30~9:30 工場内再査察
- 9:30~11:30 ミーティング
- 11:30~12:00 クロージング・ミーティング
(製造工程のみ)
宿題になっていた一部の原材料に着目して管理状況を確認。
質問表の残りについて確認。
(昼食:12:00~13:00)
2日間での査察にて確認を受けたポイントは、以下のようになります。
- 製造環境の清潔区域(クリーンルーム)、作業区域などの確認
- 作業者の衛生管理の実態(作業衣・靴、手洗い、殺菌など)
- 清潔区域への異物混入や汚染の可能性
- ペストコントロール(害虫・害獣対策)
- 製造現場でのアレルゲンの交差接触の可能性
- 加熱殺菌処理の管理方法の妥当性
- 製品ロットの初発・途中・最後のサンプル検査と出荷条件、保管方法
- 製品へのラベル添付と消費期限印字の管理方法の妥当性
- 原材料受入れ時や調合工程における製品への異物混入や汚染の可能性
- 原材料の保管方法の妥当性
- 製造工程、原材料受入れ、などの記録の実態
(給水配管の逆止弁についても確認されました)
工場内査察の目的は、製造工程の理解と実態把握でした。
そのため、英語の工場敷地図、工場内動線図、フローダイアグラムをお渡しし、それを見ながら、一通り説明をしていきました。
査察後のミーティングでは、以下について確認を受けました。
- 原材料の一つについて、その受入れの納品書から製造工程での使用と残量の記録
- 閲覧を求められた情報一覧(残り)
特に、ハザード分析表、HACCPプランとして提示した一般衛生管理プログラム、リコール計画書については、内容を一行一行確認され、時に通訳を介して細かく質問を受けました。
こうして、約3週間前に送られてきた「査察の際に閲覧したい情報一覧」をすべての確認が終わりました。
最後にクロージング・ミーティングを行いました。
まず、FDAのパンフレットをいただき、簡単な説明を受けました。
そして、査察官から観察事項についての説明がありました。
仮に、この説明の中で、誤解をそのまま放置してしまうと、オフィシャルな評価として記録が残ってしまいます。
また、観察事項に対してリーズナブルな対処方法を回答する必要があります。
対象方法が不足していれば追加措置を受けることになりますし、過大であれば対処費用が増えてしまいます。
そこで、慎重に観察事項の内容を理解して、誤解や問題が無いかを確認した上で、対処方法を回答していきます。
さて。
肝心の指摘事項は、以下の3点。
- 「原材料の保管場所が、外部環境の影響を受けやすい」
- 「原材料の貯蔵タンクの上に雨水が溜まる」
- 「製造エリアで水洗浄ホースの先端が床面に接していた」
これに対して「保管場所を変更する」と回答。
現場での確認の際に、具体的な保管の変更場所とタイミングを伝えていました。
「雨水をふき取り、カバーを付ける」と回答。
これについても、現場で指摘を受けた際に、対処を伝えています。
指摘を受けたその場にで対応、現場での注意喚起を実施済み。
以上については、それぞれの担当者から口頭であらためて回答しました。
その結果として、査察官からは「本部からの最終結論はあらためて出されるが」と前置きされた上で、「個人的にはたぶん No action indicated に該当すると思う」とのご意見をいただきました。
フォーム483の発行もないとのことでした。
そして、大抵の場合、「No action indicated」であれば、次回の査察は6年後になることが多い、とも。
- No action indicated (NAI):追加的な是正措置なし。
- Voluntary action indicated (VAI):自主的な是正を望む。
- Official action indicated (OAI):規制措置対象。
査察指摘書(Form FDA483)が発行されて、是正回答書の提出を求められる。
輸入禁止などの可能性あり。
ちなみに、日本企業2009~16年実績で、NAI-48%、VAI-45%、OAI-7%。
さて。
この査察結果(EIR)については、後日、郵送されてくる、とのこと。
こうして、2日間にわたるFDA査察は、想像以上に和やかに終わりました。
査察官が、査察の際に、持ち帰られた資料は、以下のようになります。
- 会社案内(日本語)
- 輸出している商品一覧、海外売上推移
- 商品ラベル(英語版、日本語版)
- 食品安全計画書(英語翻訳版)
- ハザード分析表(英語翻訳版)
- 一般衛生管理プログラム(英語)
- 工場配置図(英語翻訳版)
- 工場内動線図(英語翻訳版)
- フローダイアグラム(英語翻訳版)
- リコール計画書(英語翻訳版)
- 製造工程記録チェックシート(日本語)
念のため、お渡ししたすべての資料に、 CONFIDENTIAL(厳秘) を打っています。
というのも、査察結果のみならず査察内容についても公開されてしまうからです。
但し、資料に「CONFIDENTIAL」と印字またはハンコを押されたものは、公開されません。
特許公開していない「企業秘密」に該当する製造工程や製造条件などが記載された書類については、忘れず「CONFIDENTIAL」を打っておくべきか、と思います。
査察官から「査察結果はネットで公開される」とおうかがいしたので、調べてみたところ、以下のサイトがありました。
実に、過去に査察を受けられた会社も検索することができてしまいます。
Inspection Classification Database Search
https://www.accessdata.fda.gov/scripts/inspsearch/index.cfm
検索の仕方は、簡単です。
- Project Area:
- Country/Area:「Japan」を選択
- Inspection End Date: From~To形式で、査察終了日を指定
食品検査の場合は、「Project03-Foodbonrne Biological Hazards」
早ければ2ヶ月程度で、結果がWEB上で公表されます。
査察対応、振り返り
結果として、今回の査察には、想定以上にスムーズに対応できたものと思います。
品質管理と製造管理の担当の方々のご尽力の賜物でした。
そして、これまで品質管理・衛生管理にきちんと対応してきた、日々の積み重ねの結果であったと思います。
振り返ってみると、査察対応で特に注意したことは、以下の通りです。
- FDAからのメールに対しては、速やかに回答すること</li>
(しかし、余計なことを尋ねて藪蛇にならぬよう、留意する) - 査察官と通訳の方のストレスをなるべく軽減すること
- 食品製造や衛生管理に関する説明は、すべて通訳を介すること
- 査察対象資料の準備
- 通訳を介しての円滑なコミュニケーション
査察官と通訳の方は、長期の出張でストレスを感じておられます。
細かいところでの気遣いは、最低限、必要だと思います。
(車での移動、昼食、お茶・ミネラルウォーター、英語でコミュニケーションできる担当者のアテンド)
ちょっとした日本語の説明でも、誤解を受けぬように注意。
なるべくFDA通訳(無料)を依頼して同伴していただいた方が良いかも。
重要な資料は事前に英語化。
常に笑顔で誠実に回答。
分からない点は、「質問の内容は、〇〇ですか?」ときちんと確認。
誤解を受けそうな点については、その場で手書きで図示するなど、分かりやすく説明。
とても魅力的なアメリカ市場
米国は、富裕層の多く、親日的な、とても魅力のあるマーケットです。
先行きの人口減少・経済停滞で売上減少が想定される日本の食品メーカーにとって、将来的に目指したい市場だと思います。
だからこそ、肝心なことなのですが、米国への食品輸出は、このようなFDA査察を受ける可能性があることを十分に認識しておくことが必要でしょう。
つまり、品質管理担当者を設置し、食品安全に関する社内教育を行い、FDA査察にあたっては査察リハーサルなどの外部コンサルティングの指導を受けることも。
「食品の品質・安全管理なら、既にISOを取っているよ!」と思わる方も多いと思います。
であれば、FDA査察を受け入れることは可能でしょう。
米国は、たぶん食品衛生管理の点で世界で一番厳しい国ではあります。
一方で、米国の管理基準をクリアした実績は、世界に通用する食品衛生のレベルにあるという証、でもあると言えるでしょう。
海外への販路開拓にあたって、海外バイヤから「FDA査察結果がNOIとは、素晴らしい」と評価されました。
要するに、問題は、過不足の無い対応の範囲とコストを見極めること、でしょう。
その点について、皆さまのお役に立てれば、と思い、この情報を公開することにしました。
< 謝辞 >
今回のWeb掲載には、FDA査察を受けられた経営者の方のご了解を頂戴しております。
ご理解とご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
ありがとうございました。
ライター: 植草 啓和(JBマーケット)
https://jbmarket.jp